ワイン商の考えることなんか単純

 一方で、ワインを知れば知るほど、語りたいことが増えてくるのも事実。それは生産者の情熱であったり、一本のワインに伴うストーリーであったり。ありきたりな言葉だが、ワインは実に奥が深く、時には感動さえ覚える飲み物なのだ。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/nba/20090212/185896/

久しぶりに吹き出しそうになった。これは、ワインに限らず全ての飲み物に当てはまることを殊更ワインだけを強調する業者のタダのセールストークに過ぎない。日本酒やウイスキーといった他の種類はもちろん、お茶にだってそれがあてはまる*1
その意味では商魂逞しい種本さんはすごい人だよ


 もっともワインオタクの中には、こういったセールストークを真に受けて、ひどい勘違いをしている人もいるのは確か。
 その極端な例がマンガ『神の雫』である。補糖されたワインが出されると、「こんなのを飲むくらいならビールを飲んだ方がまし」とビールを貶め*2、補糖を「果実味がないのをごまかすためのルール違反」*3とか、シャブリが牡蠣にあうのは「牡蠣の殻が堆積してできた石灰岩質土壌由来のテロワールのため」*4とかなりとんちんかんな説明*5をする漫画で、こんなの読んでもワインが分かるわけがないと思うのが普通だ。
 またライバルが空輸した土を食って、テロワールを学習しようとする極端におかしなうんちくが満載の漫画である。*6

さてさて、そんな漫画を種本祐子氏は初心者向けにと紹介している。

答えは簡単。彼女が専務を務めているヴィノスやまざきのウェブサイトを覗いてみよう。『神の雫』の監修を務めるDRCサイトウとヴィノスやまざきが、ずぶずぶの関係にあることが一目で分かる。
そして自分たちだけが扱っている蔵直ワインをコラムでとりあげ、なおかつ自らのサイン入りで「神の雫」監修&コラムニストDRCサイトウの一イチオシ蔵直ワイン特集!!などという小っ恥ずかしいページを出しているのだ。
こういうのをマッチポンプと言うのではないだろうか?

ちなみに、嘘か誠か某掲示板によるとヴィノスやまざきの蔵直®ワインの価格は、外国での小売価格の2〜3倍であることがあるらしい。並行輸入物を探すか、大量に買えるなら個人輸入を考えた方がいいかもね。

追記

弁当翁からコメントをもらった。
このエントリーはワインの品質に関して文句をつけたものではない。また蔵元と正規の販売契約を結んだ行動力を否定するつもりではない。
指摘したのは、初心者へのワイン普及用図書として、自社ワインを持ち上げる「ワインのことを分かっていない作者による間違いだらけの漫画」を取り上げた商魂ですよ。
神の雫』のヘンテコさを知りたい場合は、wikipedia神の雫の項目にある用語集を読むといい。2chのワイン板のような露骨な罵倒ではないけれど、何故か訂正をしない不思議な設定が網羅されている。*7

ちなみに神の雫の特徴に、本筋のワインの物語に合わせたストーリーとは別に、作者がただただうまいと感じたワインが唐突に提示されるというワインカタログとしての側面があり、おいしいワイン*8を探したいだけならいいのではなかろうか。そういう意味ではお金持ちのワインオタクが、薀蓄やストーリーの荒唐無稽さに目をつぶって、情報源として利用しているというのも別に分からない話ではない。

また種本氏は作り手側の情熱に関わる書籍を紹介していない。実はワインは難しいものではない。農業者が一生懸命に仕事をして作る“農産物”なのだなどと書くなら紹介すべきだろう。例えば世界一優雅なワイン選び (集英社文庫)なんかを

追記2

今週号の神の雫本文及びコラムで取り上げられたシャトー・ムーラン・オーラロックは、やっぱりヴィノスやまざき取扱いのワインだった。品質が値段相応であればいいのか、みたいな話はともかく適当に検索すると

蔵直のメリットがなさげ。なんなんだろう。

追記3

北村屋は共同輸入者だったらしい。
ところで自分が気に入ったからといって、身内(監修者)の身内のワインを紹介するのは、やっぱり傍目に見てブラックジャーナリズムだ。ロバート・パーカーはWA誌で自分のワインに点数なんかつけないぞ。

*1:もちろんワインにも当てはまるということには同意する

*2:主人公はビール会社勤務なのだが

*3:普通はアルコール度数をあげるために葡萄ジュースに酵母の餌である砂糖を追加することを補糖という。制限はあるが合法で、地球温暖化以前は果実の糖度が足らないことが多いブルゴーニュにおいて、例年多くの蔵で一般的に行われている。

*4:シャブリのミネラル感は、硫黄の過剰利用がマロラクティック発酵を抑制するからと一般には推測されている

*5:古いセールストークの一つであるのは確かなのだが、事実に反するのでフランスワイン至上主義者くらいしか言わない。

*6:実際にはワインの出来上がりには畑の排水性が強く影響する。そして人工的に排水性を向上させるためになされる暗渠排水の有無は、土に含まれる栄養やら微生物層から予想するのは不可能。

*7:畑の等級に関して間違えたときはすぐに訂正が載ったので、ここに残っている設定は直す気がないと見ていいのだろう。

*8:本当においしいのか、インポーターや酒屋の在庫処分なのかはわからないが