近親交配は生物学的にどこまで不利なのか?

インセスト・タブーは構造主義人類学ラバーにとって重要な制度だが、インセストの回避という現象自体は広く生物で見られるので、ホモ・サピエンス固有の現象として捉えるには、言説化された文化ないし制度としての側面に着目する必要がある。当然反証として、実態はともかく制度として兄妹婚や姉弟婚が存在する文化などが挙げられるわけである。
とはいえ実態としては、やっぱりヒトは近親交配を避けるし、遺伝病が出やすいので不利というのも間違いないだろう。
しかし一方で近交耐性の高い生物がいる。山羊や羊などの畜獣がそれだ。動物学が発展する前、ヨーロッパの哲学ではヒトとケダモノの境目が近親交配だったのは、モデルケダモノが山羊だったからと言われている。その繁殖力と近親交配耐性の高さはサタニックなイメージに重ねられたそうな。
なぜこんな能力を山羊が獲得したのか、1万年くらいの家畜化の歴史によるという話である。ポピュレーションの小さい集団では、劣性致死遺伝子がスクリーニングされ、結果的に耐性が向上するようだ。
また性選択が種分化の初期において重要な役割を持つことが予想されているが、当然種分化に先だって程度近交耐性がある程度ないといけないのではないか。これが、地域隔離群でのクラスター化が進化に先立つ原因かも知れない。もちろん短期的には、遺伝病の発症が予想されるので負適応的(())な過程なので、通常の意味では生物学的にも駄目な過程なのだけれど。

以上のことから、ある世代における適応度の減少を元に「近親交配は生物学的に不利」と主張することは、生物学的の意味を限定的に捉えすぎであり、ダーウィニアンは慎むべきであろうと考える。



という論文が実際にあるのかどうかは知らない。あったら読んでみよう。