今西は本当に全体論者なのか?

都井岬のウマを読んだところ、「これまでの動物社会学は全体ばかりを見ていて、個体を注視しなかった。社会の要素たる個体を無視して社会が分かるわけはない。」(うろ覚えにつき不正確)という一文を見つけた。
ニホンザル以前から個体識別を元にした研究の重要性を語ったものとして感慨深い*1。ま、高崎山幸島での調査成功後に執筆・出版された本だからなのかもしれないけど。

生物社会の論理で種個体間の「はたらきあい」が重要であるということを語り、都井岬のウマで個体・個性を認識することの意義を主張する今西。生物学では社会の構成要素は個体であるという風に理解し、その遺伝的な戦略を元に社会を理解するというのが主流だが、今西の社会観はそれとは全く異なる。

今西、そしてその弟子である伊谷は個体の論理と、それとは異なる社会の論理を別のものとして扱うことの重要性をといた。今西とその弟子達は、要素還元主義ではないが、全体論とは言えないのではないか。

きちんと動物個体の世界を通し、その上でそれぞれの相互作用を明らかにしていく。ルーマンと通じるところがあるのかもしれない。

*1:ちなみに、個体に番号を割り振って社会研究を最初にしたのは、アメリカのカーペンター。今では昆虫に番号を振って研究する人もいる。生物社会学というより個体群生態学よりのだけど