サルヤマの思いで マウントとけづくろい

シンガポールにあるナンヤン工科大学のマイケル・ガマート助教授は、インドネシアのジャングルで2年近くにわたってオナガザル科のマカクの群れを観察。その結果、オスのマカクが交尾の対価として毛づくろいを利用していることが分かった。オスに毛づくろいをしてもらったメスは1時間に4回もの交尾に応じ、ほかのオスと交尾する確率は減ったという。

毛づくろいに費やす時間は「市場」の大きさに比例することも判明。オスの数が少ない群れでは8分間の毛づくろいで交尾させてもらえたが、オスの数が多い群れでは倍の16分間の毛づくろいが必要だった。

(論文を読まずに書いてます。)

霊長類の交尾行動の分類に、シングルマウントとマルチマウントというものがある。射精に至まで一回のマウントで済むのが前者であり、マウントしてを数秒しては離れて勃起が収まりというのを数回から十数回繰り返したのちに射精するのが後者。ホモ・サピエンスの場合、元気な若者が連続して同じ相手に射精することはあっても、一回のマウントごとに射精するのでシングルマウントの種である*1。またマルチマウントの種の場合、射精終了後に同じ相手とまた交尾をするというケースもある。

さて記事で扱われているのは(どの?)マカクだが、その同属であるニホンザルで話を続けたい。私が猿山で猿を見た経験からすると、交尾と関係する毛づくろいは二つ。ニホンザルははマルチマウント種なので、マウント間のインターバル中の毛づくろい。なんというか緊張に追われた感があり必死さが目立つ。もう一つは前述のとおり射精後交尾相手と再度交尾するケースがあるのだが、その交尾と交尾の間けづくろいをするケース。後者は交尾(射精)終了直後にイソイソと寄り合って、まるで後戯のように毛づくろいを開始し、しばしばそれに連続して交尾を再始動させると言った方が正解か。

交尾は普通最初のマウントから射精までと見なすのが一般的なので、マウント間の毛づくろいと射精後毛づくろいは通常まったく意味合いが異なるものとみなされる。もし毛づくろい頻度を出すと、当然マウント間毛づくろいの頻度は日常の交尾をしない関係における毛づくろいよりも、バカバカシク高くなる。

記憶が確かなら、交尾時間20分のうち、マウントが10回、そのインターバル9回のうち4回したことがあったので、頻度は12回/一時間。(仮に)交尾前後10分を交尾と連関させておけば、ほぼ確実にする射精後毛づくろいも計算にいれることができるので、一時間あたりの毛づくろい頻度は確実に通常の毛づくろいより高くなる。

さらにニホンザルのメスは普段同じ群れにおらず、交尾期間のみあらわれるヒトリオスを好む傾向にあるので、観察期間内における毛づくろい頻度は十分追うことができる群れオスの頻度よりも、どうしても交尾前後と毛づくろい中に集中してしまうヒトリオスの毛づくろい頻度が高いのはまさに自明の理である。

従って、研究のフレームワークとして交尾と毛づくろいのトレードオフを検証するのは極めて困難であるし、本質的に胡散臭すぎる。私がこれまで読んだマカクの生物学的市場仮説の論文の場合、たいていはメスの低順位個体がメスの高順位個体に”毛づくろい”をすることで、慣れ親しみのある関係を作りだし、食物競争のコンフリクトなりを回避・縮小するという話だったはずだがねぇ。

というわけで私の見立てでは、群れオスが多いと「交尾の邪魔をされる可能性が高いというストレスで毛づくろいをする」。「毛づくろいが交尾に結びついているのではなく、観察手法のバイアスによって交尾が毛づくろいと結びついた」だと思うの。

まぁ本当に関係しているのかもしれんが。

追記

論文を見つけた。Animal behaviourか。
http://tectschool2008.googlepages.com/Gumert2007matingmarketAnimBehav74p16.pdf - Powered by Google ドキュメント

しっかし、2007年の論文を今記事にするかね。

追記2

対象であるカニクイザルは周年での繁殖が可能であり、コンソートを長期に渡って維持する種であるから、オスがグルーミングによってメスを囲い込むことが有利であるというお話らしい。論文では頻度じゃなくて持続時間が問題になっていたことも明記しておく。

*1:どっかのエロテクニックに射精までに、意図的に中折れを繰り返すとかがあると話は別だが。