スーダンの女子割礼についての事例報告

昨日書いた女子割礼はケニアのものだったが、スーダンの女子割礼を書いておこう。引用元は大塚和夫の『いまを生きる人類学─グローバル化の逆説とイスラーム世界』第二部第四章 女子割礼および/または女性器切除(FGM*1

なお、ちょっと前の本なので現在スーダンで行われている女子割礼の論理と一致しているかについては、まったく保証がないことをお断りしておく。

民族誌的事実としての女子割礼目撃談

カナダ人女性人類学者、J・ボディは、1976年から77年にかけて、スーダンの首都ハルトゥームから北に200キロほど離れたナイル川沿いの村、ホフリヤト(仮名)に住みこみ、フィールドワークを実施した。その成果は『子宮と異邦霊』という著書になり、そこでは主要テーマである憑霊現象と関連させながら、女子割礼が論じられた。さらには女子割礼そのものをテーマとした「オアシスとしての子宮」と言う論文も発表している。ここでは後者によりながら、彼女が女子割礼手術を目撃した場面の描写を、臨場感を伝えるためにそのまま訳して紹介したい。

〔1976年〕六月十二日、いつも経験している過酷な炎暑の一日を予想させる日。私は二人の少女の割礼を目撃するはずだ。
〔友人の〕ザイナブが日の出のころに向かえにくる。(略)。既に地元の産婆であるマリアムが、姉妹のうち最初の一人の割礼をすませ、2人目の手術の準備に取りかかっていた。(略)男性はまったく見当たらない。(略)〔手術を目にすることに〕あまり気が進まないのだ、ということを告白する勇気は私にはない。少女はアンガリーブ(むかしながらの木製ベッド)の上に横たわっており、身内の成人女性数人がその身体をささえている。そのうちの二人は、彼女の両足をひろげたまま押さえている。それから彼女は、地元産の麻酔薬の注射を打たれる。それからのちょっとした沈黙の間に、マリアムは私の目には子供用の子ども用の紙鋏と思えるものを取り出し、少女の陰核と小陰唇とを手早く切除する。彼女が私に言うには、これがラフマ・ジュワ(内側の肉)とのこと。驚いたことに患部からはそれほど出血していない。それから彼女は産婆道具箱から手術用の針を取り出して糸を通し、小さな開口部分を陰門部に残して大陰唇を縫合する。消毒剤をたっぷり使って手術は終わる。/幼い娘は痛みよりもショックを感じているようだ。結局麻酔が効いているのだろう。女性たちは短く喜びの叫び(ザガルーダ)をあげ、私たちはお茶を飲むため中庭に移動する。私たちが待っているあいだに、〔割礼を受けた〕姉妹は傷が治る時期に〔超自然的な〕害悪から守るための儀礼的な装身具を受け取る

以下、他の部分を要約しておこう。統計自体は1982年に発表されたエル・ダリールの著作にある、1970年代後半の調査である。

スーダンで行われている女子割礼は、陰核部分の包皮のみを切除するスンナ型・1946年に植民地政府によって禁止された陰部封鎖を伴うファラオ型・その中間型がある。男性は中間型の存在を知らないことが多い。

望ましい女子割礼in スーダン(1982)

回答者 スンナ ファラオ 中間
女性 23.5% 28.2% 42.9%
男性 73.1% 18.5% 4.3%

これは女子割礼が望ましいかどうかという質問に、望ましいと答えた女性82.6%、男性87.6%にどの類型が望ましいか聴いたもの。

実際に行われていた女子割礼(カッコ内は%)

地域/形態 スンナ ファラオ 中間 合計
都市 37(2.4) 1178(77.3) 310(20.3) 1525(100)
農村 39(2.5) 1452(92.7) 76(4.8) 1567(100)
不明 4 6 - -

当時行われていた女子割礼の8割がファラオ型であることから、当事者も女子の苦痛を軽減させようという傾向が見られていたと考えてよい。都市部で中間型が多いことが示された。

実施理由

理由 女性 男性
よい伝統 914 370
宗教的要請 668 680
清潔さ 290 344
よき結婚のため 94 53
夫の快楽のため 113 247
処女性の保持と不道徳的行為の防止 190 109
ファラオ型よりも害が少ない*2 420 484
出産能力のため複合的理由 29 22
複合的理由 125 43
合計 2843 2352


イスラーム法権威の多くは既に、女子割礼に対して宗教的義務ではないと表明した後での調査結果であるということに注意して欲しい。

なお、エジプトのカイロ下層階級で調査したイラン人ムスリム女性、H・フードファル(1995)によれば、情報提供者の女性(すべて女子割礼済みで自分の娘にも割礼を希望している)は最初、イスラーム慣行であるとしていたが、イスラーム国家であるサウディアラビアなど女子割礼が行われていない国も多くあることを指摘すると、コプトキリスト教徒も行っていることを根拠に、「エジプト的慣行」であると意見を変えた。理由付けについても、「性欲抑制による婚前の不始末を防ぐ」とするスーダンなど他の地域と異なり、女子割礼をしない女性のクリトリスはペニスのようになり、男性に興味がなくなると言い、(実は33歳だが27歳と詐称していた)フードファルが27歳なのに未婚なのは女子割礼をしていないからだと指摘した。

スーダン、エジプトとも男性が関与することはほとんどなく、女性自身の手によって行われていると言っていいだろう。

後日、人類学者による見解を引用する。

いまを生きる人類学―グローバル化の逆説とイスラーム世界

いまを生きる人類学―グローバル化の逆説とイスラーム世界

*1:初出は1998年12月

*2:これはスンナ型や中間型実施者の返答。答えになっていない