現象としては正しいけど科学ではないって一体
『現代思想 2009年4月臨時増刊号』 総特集=ダーウィン 『種の起源』 の系統樹をちらちら読んでいる。
以下記憶で書いているので引用としてはあまり正確ではありません。そのうち正確な引用に変えます
最初につまずいたのは『討議ダーウィン的仕事 / 渡辺政隆+茂木健一郎』。
茂木氏がしれっと、ダーウィン以外の説として今西説について渡辺氏にふったときに出てきたのがタイトルの現象としては正しいけど科学ではない
という返事。
おぃおぃ。意味がわからんよ。
渡辺氏は続けて、杉山幸丸がハヌマーンラングールの子殺しを発見した時に、生態要因から説明をつけたが、ダーウィニズム的な説明をつけなかったことを指摘し、今西錦司の影響で日本の生態学では現象から説明することに集中して世界に遅れをとったと解説した。
うーん。全然分からん。杉山氏はハヌマーンラングールの子殺しについて、まず妊娠しない状態にある子持ちメスを妊娠可能な状態にするということ、若いオスたちが追い出されるのは近交回避であることも指摘し、結果的に社会が一新することをきちんと説明している。総体として、種が絶滅していない範囲で起きている持続可能な子殺しであるから、進化したというわけだ。ちなみに伊谷純一郎がその簡潔なレビューを『チンパンジーの原野』(1977/1991)でしているので、原著論文を読むより当時の日本の霊長類学的な理解を手軽に知ることができる。
もちろん、集団遺伝学の視点からの考察が悪いわけでも間違っているわけでもないが、杉山氏の当時の説明だって非常に科学的に優れた考察だし、実際には利己的な遺伝子を持ってきたとしても、実は現在のハヌマーン的な繁殖スタイルが以前の社会構造よりも適応度が高かったのかどうかはわからないのだ。本来この子殺しの問題は、どういったペア/群れ構造の更新システムから、子殺しを内包した単雄複雌群に進化したのか道筋がたつのか説明できてはじめて価値ある議論になるので、集団遺伝学的にも問題ないと言っても言い換えなだけで科学上なにも発展はない。もっとも1962年の発見・1964年の発表で社会生物学的説明をつけるモチベーションはありえないだろうが。
他の霊長類にだって子殺しは確認されているが、ハヌマーンほどドラスティックな子殺しはない。
実際のところ、私はデータのないところについてもダーウィニズム全開な考察をすることに科学的な妥当性が高いとは思えない*1ので、渡辺氏の科学ではないというのは、首を傾げてしまった。大体なぜ進化を語るときに、ダーウィニズムでないといけないのか。そしてそれが現象面の分析として妥当であるなら、別にダーウィニズムと一致しても一致しなくてもいいではないか。
別に渡辺氏は進化学者ではないから、どうでもいいけどこういう説明を読む度に、由来の異なる仮説の集合としての総合説をわざわざダーウィニズムと主張する宗教的信念に共感できないと思う。
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*1:無意味とまでは思わない