エミリー・オスターの研究思い出し

平均寿命が25歳以上低下する国も 南アフリカのAIDS問題が深刻化 - はてなブックマークニュースアフリカのエイズの新しい分析……それと経済学の何たるか。 - 山形浩生 の「経済のトリセツ」Formerly supported by WindowsLiveJournalにリンクがはってある。山形氏の論点は、まず最初にやるべきエイズ対策は、即物的なコンドームの配布や遅延的な効果に期待する性教育の充実というものではなくて、エイズ蔓延の下地である一般的な性病を払拭するためにそれらを根治ができる環境をつくることだ、というもの。

ネタ元はエミリー・オスターのブログ記事なんだけど現在消えている。しかし欧米にファンがいるらしくen:wikipediaのオスターの記事からEmily Oster本人のサイトの論文一覧に飛べた。ほとんどの論文が無料で読めるようになっていて、ブログ記事の元論文Sexually Transmitted Infections, Sexual Behavior and the HIV/AIDS Epidemic Quarterly Journal of Economics, 120(2): p. 467-515 (May 2005) Correction Appendix, August 2007もPDFでダウンロード可能。

論文の中で山形氏の議論と関係するところを要約すると、

  • 欧米とサハラ以南のアフリカでは、ゴムの使用の程度そのものに差異は見られない
  • HIV感染について欧米とアフリカの違いは、公衆衛生と医療機関の違いに基づく一般性感染症の羅漢率
    • つまり診療所の充実がHIVの感染を間接的に抑えることができる
  • 平均寿命が低い地域ほどHIVの感染率が高い
    • 独身者は余命が短いほど、不特定多数の人間と性交渉を持とうとする
    • 教育の影響は小さいが、長命が期待できる富裕層はHIV回避的に振る舞う

というあたりだろうか。

既に指摘されている問題点として母子感染による影響を過小評価していることなんだけど、個人的に読んでいて一番疑問だったのは、余命だけでなく年齢も、相関を示しているにもかかわらず、行動に影響を与えているパラメータが余命なのか年齢区分なのかが分析にかけられていないこと。年齢にも相関がでたということから、成人の余命は地域間に差がない可能性があるというのに。

実際にはオスターが考えたような、不衛生で平均寿命が短い地域で、エイズ感染のリスクを押して不特定多数と交渉を持つような合理的な選択が行われているのではなくて、年齢が上がるほど多数と関係を持つ機会が増えているだけなのではないだろうか。