シンポジウム「飽くなき食への希求をめぐって」

文化人類学会の研究大会は面白くないことが多いので、シンポジウムに参加するか迷ったが思いのほかよかった。

(司会)曽我 亨(弘前大学人文学部准教授:日本文化人類学会)
美声が光る。食というテーマでありながら、ジャンルがあまりに広大であったためにカオスな感じのするシンポジウムをうまいことまとめて進行した。しかし趣旨説明のスライドに出してきた、「喰わないことを美徳とする」ガリガリの兄貴と「密輸で大もうけして」デブの弟の話が興味深かった。
甲田 勝康(近畿大学:日本生理人類学会)
話題の長寿遺伝子、というよりも低栄養のプラスの効果の話。ショッキングな話だが、栄養バランスを整えるより、粗食で低カロリーの方が身体の能力を引き出すから長命・健康になるという。うさん臭いような気もするが使っているデータは非常にそれっぽかったので疑わないことにする。発表では低カロリーダイエットでアトピーが改善したと報告していた(参考:【朝食抜きで健康になれる?!】FINE-club〜健康で元気な暮らし情報)。討論のときに触れた、快楽(ただ楽なだけであること)・快適(適度なストレスを配慮した、、何か?)の違いの話は大変興味深かった。
竹中 晃子(名古屋文理大学:日本霊長類学会)
本シンポジウムでは一番受けが悪かったようだ(というか専門家が全然聴きにきておらず、一般人だらけのシンポジウムなのが問題なのだが。)。しかし内容的には非常に興味深い。よく日本人を含むモンゴロイドは太りやすい倹約遺伝子Aに突然変異したという言説があるが、その倹約遺伝子Aというのは実は霊長類一般において普通であり、実際はコーカソイドや一部の人種で倹約遺伝子Aから浪費遺伝子Bに突然変異したのだというお話。しかも各人種に置ける遺伝構造はゼロサムではなく、モンゴロイドに置いては倹約遺伝子Aが7〜8割で残りは浪費遺伝子Bだが、コーカソイドにおいても浪費遺伝子Bは三割程度にしか増えない。そして重要なことはこの倹約・浪費の遺伝子というのは一種類だけではなく、発表においても4種類あることを示していたが、気になったので個人的に確認したところ、既に40ほど代謝効率に関わる遺伝子が発見されているという。つまり太りやすい体質かどうかという問題は、これら40+αの遺伝子の機能の総和として測るものであり、実は日本人の方が欧米人より太りやすいのかどうかまだ分かっていないのだという。
松井 章(奈良文化財研究所埋蔵文化財センター長:日本人類学会)
昔は芋を食っていたという話があるけれども、貝塚から分かっているのは、せいぜいムカゴくらいで荏胡麻の種もあるけど炭水化物はよく分かっていない。という枕からスタート。本題は日本人が実は結構犬を食べていたと言う話。縄文期から弥生時代にかけて貝塚などから出てくる、犬の骨には他の動物同様刃物によって解体された痕跡があるからだという。また桃山時代の絵には、京都で犬を捕まえる人間が残っているとしていた。しかしリュウキュウイノシシの話には躓いた。よくわからん。日本のイノシシとブタのその昔:弥生ブタ [ EP: 科学に佇む心と身体 ]を読んでもダメだ。予習しておけばよかったかも。
阿良田麻里子国立民族学博物館:日本文化人類学会)
食と社会の関係のお話。一般向けで楽しかったのだが、その分イライラが。他民族国家であるインドネシア中産階級がグルメブームで沸いていて、外食を通して階級意識を再生産している話だ!と納得することにした。人類学としてはダメダメかも。肝心の中産階級帰属意識についての説明がからっぽすぎる。司会の曽我氏が「帰属意識が食べるものをきめるということですか」と振っていたが、阿良田氏のスライドは「食べることの機能=帰属意識の生成」になっていた。阿良田氏は曖昧にして答えていたが、フィードバックがあるのはいいんだからもう少し説明をしてほしい。
(コメンテータ)安室 知(神奈川大学教授:日本民俗学会
前者二人が生物としての食、後者が社会的なものとしての食とまとめたものの、あまりコメントがパットしない。もう少し進化とか遺伝について話せる人をコメンテータにした方がよかったんじゃなかろうか。でも事例としてあげた石川県の坂網猟には興味を惹かれた。

あと、民パクの館長は若干不勉強であるように感じた。確かにバイオディーゼル産業による食料輸入地域の問題は無視できない。しかし世界は、全てがアメリカナイズすることはなく、生産力もまだまだ余裕がある。