人殺しの進化心理学についての苦言

爆笑問題のニッポンの教養 | 過去放送記録 | FILE071:「ヒトと殺しと男と女」 | 長谷川眞理子 | 2009年5月19日放送分の再放送分(5/25)を録画して見た。

例のカードの論理学テストで、人の心理特性は進化的基盤があるのだみたいな話から「人殺しというのは、基本的に20代をピークにしたへの字型を描き、20代の面子優先の行動が主である。これは世界的な傾向である。」と語っていった。

NHKが編集してカットした可能性があるので、長谷川氏一人の責任ではないが、長谷川夫妻の著作の読者としては正直許せないことがある。放送では日本の20代における殺人発生率の低下しているという資料は提示したが、彼らの調査結果で、1980年代以降、明白に現在の日本の年齢別殺人発生率は40-50代がピーク(というか統計的には年代別の有意差がない、フラットで台形的なカーブ)になっているのだ。もし殺人の進化的基盤を議論したいのなら、なぜそのような結果になるのかを議論すべきだろう。

そもそも20代で殺人発生率が高いという議論自体、統計の扱いにかなり問題がある話であり*1、自然科学としての進化学を打ち出したい長谷川氏はそろそろ足を洗うべきだろう。

なお番組中、太田が素晴らしいツッコミをした。「宝石ギライはしばしばいるのに、なぜ女性のほとんどは花を好きか」について進化的基盤はあるのか、と。とっさのことに「鳥の羽とか*2」とフラフラと性選択の話に持っていってしまう長谷川氏に思わずニヤついてしまった。そこは女性の採集行動と植物識別の必要性と結びつけるべきだったな。なんというか真理子氏の盲点が露骨に出ていた。*3



なお殺人の傾向についての論文は以下の書に簡単にかかれている。長谷川寿一氏が一人浮いている気がして仕方のない本。

ヒトと人のあいだ (シリーズ ヒトの科学 6)

ヒトと人のあいだ (シリーズ ヒトの科学 6)

追記

「戦後日本の殺人の動向」サマリー - 地下生活者の手遊びに要約があった。にゃんこ先生は評価してるのか。
でも長谷川夫妻が予測するようなユニーバーサルな曲線に戻ることはなく、統計的な差異がでない形のまま推移していく可能性の方が大きいと思っちゃうのだ。突発的な殺人なんてのは体力が主因であって、気質は二次的なものだから(と私は確信している)。

*1:スウェーデンの話を思い出すべきだろう

*2:孔雀の羽が性選択に効いていない、つーのは寿一氏のお弟子さんの結果だろうに

*3:飾るのはどう考えても文化的バイアスがでかいけどさ。